まど猫スケッチ

カメラを手に感じてきた雑感を回想する

その35.K-3 到達点されど特異点

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◆出会い

老眼が進み、ファインダーでピント確認するのはもうやめようとK-5とK-rを思い切って始末した時がありました。これから先はK-01の液晶見て写真撮るしかない、と。

ところが、「K-5よりファインダ倍率を3%上げてみました」というK-3が出て、試しに量販店に並び始めた物品を覗いてみたら、アレ、コイツは大変見やすい。

やっぱり一眼レフ欲しい、という気持ちが再燃し発売後ひと月もたたないうちにボディを購入しました。値段は相応に高かったので勇気が要りましたが、今4年以上使い続けていることを考えると2013年12月7日22時13分の決断に誤りは無かったと思います。

K-3には、これまで手にした写真機のエッセンスがドカンと一発で集約しています。FTbの金属感、FGの触り心地よさ、EOS100の安心感、FM2の精緻な作動感、アリアの優しい写真を撮らせるオーラ、RXのレンズ性能を生かし切る基本性能の高さ。

小型の割に大きなダイヤルやボタン、大きな液晶とマーク、大きなグリップ、大きな光量の内蔵ストロボ。完全に実用になるカメラ内RAW現像。と、褒めてばかりでなく、要望したいところもあるにはあるが。

非常に写真機らしい写真機。K-3の良さはそこにあり、それを伝えたいがためにこれ以降の文章がいつもより長くズラズラと続きます。

◆K-5との違い

このデジカメは、2400万画素撮像素子が生み出す精細描写と、暗いところでも働くオートフォーカス、独自のモアレ低減機能、ペンタックスにしては高速な連写性能。この4つがK-5からの進化の目玉と言われました。

しかし、実際に使った印象では、K-5の発展系というよりも、カタチは似ていても全く別な思想のもとにつくられていることを実感しました。「良くなっている」方向ではなく「違っている」方向を向いていたからです。

1)疲れないファインダ

大きくなった、明るくなった ということよりも、歪みがまったく無くなっていることが違う。K-5のファインダでは隅っこがゆがんでいたが、K-3のものは極めて均質性が高い。覗いていて実物をそのまま見ている安心感があるだけでなく目の疲れを感じずに済みます。老眼(で近眼)だから覗きにくかったのではなく、歪の有無が関係してたのだとわかりました。まあ、若ければ気にならないのかも知れませんが。ゴホッゴホッ。ファインダが隅から隅まで均一に見えること。これは、レンズが付かなければただの暗箱に過ぎない一眼レフの機能として大変重要なことと思います。

実際に撮影した写真とファインダ像を比べると、ファインダ像の方が絞り込まれて見えます。出来た写真を見ると、覗いていた時に比べ背景がボケて被写体が浮き立つためレンズの性能が極めて高いかのように錯覚することもあります。

ピント性能としては、レンズの焦点距離が35mm以上ならどこにピントが合っているか良くわかります。ただ、オートフォーカスの性能が高いので老眼(でド近眼)の身でマニュアル合わせに挑むチャレンジ精神はありません。ゴホッゴホッ。

2)(あたりまえだが)正確なオートフォーカス

K20Dの時は、撮影したあと画像を拡大するまでもなくピントを外しているケースが時々ありました。撮ってみないとわからない部分もあり、ものすごい緊張感を強いる博打的なデジカメです。K-5になるとそれは緩和されたものの、拡大すると結構ピンズレしていて、「まあ、スプリットイメージで合わせていたフィルムカメラ並みならいいか」と、心広く受け入れてました。そしてK-3。ペンタックス純正のレンズを使う限り、驚くほどオートフォーカスが正確に合います。画像を拡大するのが楽しみになるくらい良く合う。そして、このレベルをK-5の時に達成しておけばレンズメーカをつなぎとめておけたのに、の気持ちはあります。ピントが合わない理由をレンズのせいと勘違いされたら、もうペンタックスと組む気は失せたでしょうから。

フォーカスの早さ自体はレンズも関係するのでデジカメだけで語ることはできませんが、キャノンのEOS6DⅡを店先で触った感触からすると、新幹線のぞみと小田急ロマンスカーくらいの違いです。このロマンスカー、それでも駅にいる乗客の足元にピタリと止まります。それだけでも乗り込む老人としては嬉しい。

3)油断ならないオートホワイトバランス

実際の見た目に対し、すっきりしています。暖色を薄めたというか、生暖かい湿気を取り除いたような色に変換されて出てくるので、それを受け付けるか出来ないかで評価の分かれるところです。ちょっとK-5とは違う傾向でした。

最初のうちはそれでも良いと思ってましたが、後でRAWを現像処理するときに写した時の光景の色調などは頭から消えているのでどういじったらいいかがわからないことに気づきました。RAW形式なのでホワイトバランスを自由にいじるぞ、と思っても「ウググッ」となるので結局は「撮影時の設定」という項目しか選ばない。撮った時にどういうホワイトバランスを取るかが(記憶力の薄れゆく身にとっては)大切な理由はそこにあり、K-3の独特のオートホワイトバランスにあらゆる局面を任せるのは野武士野郎でない限りなかなか勇気のいることです。

今は、色温度の数値をそのたびにセットするか、あるいはニコンのグレー紙の切れ端を使ってマニュアル合わせをしてから撮影することが多いです。これは結構手間がかかるものの、オートホワイトバランスに任せてアジャパーとなるより精神的な寿命は格段に伸びる。では、ペンタックスはどれもそんな面倒なことしなければいけないかというと、後に出たK-70はオートでもかなり見た目に近い。同じメーカだから同じホワイトバランスとは限らず、その機種ごとに自分にあったホワイトバランスの取り方を探す必要があることがわかりました。

4)実用的なカメラ内RAW現像

K-5の時には、歪曲補正や光量補正をかけてJPEG撮影するとものすごく待たされましたがK-3はそれを意識せずに撮影できます。これに限らず、総じてプロセッサの処理が速いので、カメラ内でRAWファイルを現像するのがサクサク快適に出来ます。画像一枚一枚を現像するだけでなく、選んだ画像を一括して行えるところもパソコンでファイル変換する感覚に似ていて大変良い。

また、現像の内容も多岐にわたり更にデジタルフィルタまでかけられるので、撮影が終わったあとの帰りの電車の中で一心腐乱にチマチマしている楽しさといったらありません。そこでニヤけたりすると盗撮してるのではと疑われる危険と紙一重だが。

そして、スロットがダブルスロットなので、現像し終わったJPEGファイルをRAW撮影したSDカードでなく、もう一つのスロットにさしてあるカードに落とすことができるのも有り難い。そうでないと、一つのSDカードの中にRAWとJPEGが似たような画像で並ぶことになり何が何だかわからなくなります。この、別のカードに処理したファイルを落とす感覚、これは今をさかのぼること30年、NECのPC-9801で5インチのフロッピから一太郎ver.3を起動し、その作成文書をもう一つの5インチフロッピにガタンガタンと落としていた頃の記憶と見事にシンクロします。PC-9801がK-3にカタチを変えて蘇ったような気分です。さらには、落とすフォーマットとしてJPEGだけでなくTIFFも選べるところが「you know it」感をより高める要素にもなってます。TIFFだとファイルサイズが増えてしまい何が嬉しいか? ということですが、K-3の中にしかないファインシャープネスやキーコントロールといった調整パラメータをかけた画像をまた別の画像ソフトに渡して処理するとき、24ビットの情報量があるのでやりやすいのです。

ここまで興奮して書きながら、普段の現像は大きな画面を見てじっくり進めたいのでパソコンの前に座りライトルームを使います。ただ、撮影してすぐに画像を妻に渡したりするときや、旅先のテレビで大写ししたい時など、パソコンがないシチュエーションでJPEG画像が欲しい時は結構ある。そんな時にいかようにでも調整でき、ハードで処理するので圧倒的に速く、RAW撮影とは別のSDカードを渡すことが出来る。大変便利です。

ところで、ダブルスロットは双方ともSDカードである必要はもう無いと思います。むしろ、一方はマイクロSDカードにした方がボディのスペースを他に活用できるし、カードを渡して使う場合にも便利な時代ですから。

5)世に逆らう画像処理志向

ニコンで撮られた写真を見て羨ましいと思う時があります。それは、黒いザラザラ感がなくスッキリしているからです。逆にいうと、光線をとらえた写真というよりも絵の具を使った描画に近い印象を受けるともいえます。一方、ペンタックスは画像を拡大すると黒い粒がK20DだけでなくK-5でもブツブツと写っていました。拡大せずに見ると、この粒の存在は全体にザラッとした印象を与えます。透明感がありながらザラっとしている不思議な印象です。

さて、K-3ではK-5に比べ黒い粒を感じなくなりました。それでも、粒の子供みたいなものは何となく浮遊しており、特にISO1000を超えたあたりから気になり始めます。

世に出回るあまたの一眼レフが高ISO感度で出るノイズを必死のパッチで消しに回っているのに対し、異邦人の佇まいを思合わせるレベルです。世の中の言葉が通じてないような。。。その分、撮像素子が捉えた情報は少しの洩れなく救い上げる思想が貫かれているのか、K-3は色調や諧調のつながりが非常にスムーズ、それでいて繊細な解像度があるので撮られた写真に立体感があります。これはK-5よりもより明確な写真の進化として感じることができます。また、他のメーカで撮られた写真にはない独特の雰囲気を持ちます。上品だけど凄みがある画質です。

昔(ってどれくらい?ヒ・ミ・ツ)はISO100が標準だったので、ISO400でさえ画質を犠牲にし高感度を優先したフィルムと見なされていました。普通の人が写真機を首からぶらさげているときに、暗いところを撮ろうという思想自体が無かったと思います。そんなときは三脚を持ち出す、ストロボを焚く、写真を撮ることを考えない、手ブレや感度荒れ承知でシャッターを押す、のどれかでしたから。

その延長でいえばISO800まで常用できるK-3はアッパレともいえます。しかし、今は時代がちがーう。一歩間違うと兵器になってしまう三脚やストロボをゴソゴソして公安を慌てさせることより、スマートに写真機一つで撮るのがナイスガイを自認するための必須条件なので、より高いISO感度で綺麗に撮れなければいけない。今ではオートフォーカスのおかげでf値の暗いズームレンズが普通に使えるなったために、昔はISO100で撮れた場面もシャッター速度を確保するためISO800以上が求められるようになってきた背景もあります。

この時代性を考えると高感度ノイズ低減よりも立体感重視を貫く姿勢には独特なものを感じます。後発のK-70では見事に高感度ノイズが処理されているので、K-3はペンタックスの中でもフィルムカメラらしさを残す稀有な存在といえます。

なお、メニューの中でISO感度ごとにノイズリダクションのかけ方を自由に変えれるようになっており、リダクションを最大にかけると黒粒感はかなり軽減されISO1600でも実用的なレベルになります。そして、このリダクションをかけても、通常に写真1枚を見る限りは立体感の劣化はそれほど感じずに済みます。しかし、K-70の高感度性能と比較すると、その独立自尊ぶりにはやはり敬服せずにはいられません。昨年も今年も夜桜をK-3で撮るのは諦めました。

6)デザイン:自分を内省へと導く

K-5のデザインはその前のK-7を踏襲していました。このK-7は、それまでのK20Dや突然変異のK-30が持っていた「うわ、何コレ」感とは無縁のハンサムボーイでしたが、K-5は頭の部分の稜線をシャープにしたので更に男前ぶりが際立っていました。

で、K-3もその延長にあるデザインをしており、一見すると非常に似ています。しかし、いろんなところが凸凹していて全体として処理しきれていない印象を受けハンサム度は残念ながらダウンしました。特に上面液晶から右ストラップにいたる造形の無骨さにはガッカリします。その一因は、内部に詰め込む機構や素子や配線やらが増えてしまい、内側から外にはみ出さざるを得なかったためと推察します。

それは、30代の頃はやせていてうまくジャケットを着こなせていたヒトが、50も半ばを過ぎてあらゆる脂肪やらリンパやら糞やら内側からはちきれんばかりの肉体に変貌しているにも関わらず、愛用を理由にジャケットを着続けているために外からみたら肉塊が凸凹と表出している(しかし自分では気づいていない)様相そのものです。つまり、自分のことではないか。このように、K-3は手に取るヒトに肉体改造への意識を促す効果もあります。それが嬉しいかどうかは別ですが。

手に握った感じはK-5より向上しています。気になっていた左手にあたるエプロン部のでっぱりが小さくなったこと、そしてグリップがより握りやすくなったためです。

K-3の後継にK-3Ⅱがあります。内蔵ストロボの代わりにGPSとアストロトレーサをつけたために頭が少し上にあがっています。そのためにアクセサリシューまわりと段差が生じて更にヘンなことになっていますがあまりにも露骨すぎて誰も指摘する勇気は無いようです。ところで、ペンタックスが開祖である内蔵ストロボ、これを無くしてGPSに置き換えるというのは、脳ミソの一部をAIに置き換えるこれからの社会を暗示しているのかもしれません。深い。さて、そのころの人類はツムジの部分がAIの分だけ突出しても許されるのでしょうか。身長は伸びる。

◆抜群の操作性

情報を読み取り易い上面液晶・上からのぞいた時に自然に触れる前後のダイヤル配置・ISO感度変更のし易さ・メニューに入らず変えられるカスタムファンクションボタンの存在 などこれまでも操作性は優れてましたが、K-3ではさらにもう2つ使いやすくなった部分があります。

ひとつはフォーカスモードの設定です。左エプロン部にモードボダンがあり、これを押しながら前のダイヤルで一枚ピントか連続ピントか、後ろのダイヤルで自動ピントか選択ピントか を簡単に設定できます。これが普通のデジカメだったらメニュー画面の中でないとできないものです。そしてもうひとつは、巷のカメラでは当たり前ですが、モードボダンに3つのユーザ設定モードが登録できるようになってます。K-5では一つしかなく、それをメニューの中で5つにわけて設定するというやや煩雑な操作が必要でした。

3つで足りるか?というと、若くないので(ゴホッゴホッ)それ以上だと何を設定したか覚えきれず。おそらく、K-3を設計した方もそうなのでしょう。え?ええ?

◆操作性、それでも今までから変えないでほしかった部分

一つはこれまで背面右のど真ん中にあったAFボタンが右上に移動したこと。これは右目で覗く人は恩恵あっても、左目でしかもメガネで覗く者としては自分のメガネと指が干渉するので好ましくない位置です。前の位置だと親指がスポッとおさまるので丁度良かった。その位置には使ったことのないカメラとビデオの切り替えスイッチが将軍様よろしく鎮座されている。その上にあるグリーンボタンなら何とか指が届くので、メニュー設定でグリーンボタンにもAF機能が割り当て出来ると良かったと思います。

もう一つは、部分露出・マルチパターン露出を切り替えるスイッチがなくなり、ボタン押し+ダイヤル方式に変更になったこと。では、それまでスイッチにあったところはどうかというと、露出モードダイヤルのロック解除がこれまた鎮座されている。これはあまり必要ないと思うので、切り替えスイッチを止めざるをえない別の理由があったのでは?とつい勘ぐってしまいます。例えば、ユーザ設定モードで露出方法の設定を選べるようにするためにはメカ的なスイッチだと都合が悪い、など。

◆K-3クチコミ:ミラーのバタバタ

K-3は撮影していると突然ミラーがバタバタし出して、電源を切ってもおさまらない。電池を抜くしかない。という不具合の書き込みを目にしました。

4年間使っていますが、幸いというか、それが普通というか、連写モードのときもこの状況に遭遇したことはなく、ミラー作動が不安定になる気配も感じたことはありません。

個体差なのか、使い方の違いで出た不具合なのかわかりませんが、リコーはファームウェアでこの問題には対処済みなようなので、これからも気にせず使っていきます。

◆2段の露出ブラケット

一般にオートブラケットと呼ばれる、露出を3段階にわけて連写する機能はコンタックスが最初に採用したと記憶してますが、今ではどのデジカメにもついています。これを使うと、ポジフィルムをあとで見た時に、自分のイメージに合わせて3枚の中から選択することができます。ネガフィルムの場合は、よほどの露出ズレでない限り現像段階で明るさをコントロールできるのでポジフィルムほどの有り難さは感じませんでした。むしろ、3枚同じ光景を撮る中で1枚選択というのは、あとの2枚を捨てることも意味するので、高いフィルム代を考えるとブラケットする度胸はなかなかありませんでした。

そしてデジタル。JPEGで撮っても、±1段くらいならデジカメの中で明るさを変えて追加保存できるモノも多い。ただ、そのような追加保存したりパソコンで調整したりといった後処理も、それが楽しみでない場合は面倒なだけなのでオートブラケットで撮影し、要らない2枚は捨てるというやり方の方が簡単です。しかもデジタルだと、捨てるとしてもコストがムダになるわけでなく単に消去するだけなので、フィルムよりもオートブラケットを使う時の抵抗は減っています。

この、撮影画像を捨ててもお財布に対し罪悪感がない、というデジタルの特徴から3段に限らず5段ブラケットが出来るものも増えてきました。しかし、それは同時に選ぶことと捨てることの手間が余計増えることになります。

JPEGでなくRAWで撮影する場合は、後処理が前提なのでブラケットするにしても5段はおろか3段も必要なく2段あれば十分な場合もあります。それに2枚の場合はアレかコレかしかないので、選ぶ決心もつきやすい。

2段ブラケットができるデジカメは意外となく、それができるという点でもK-3を気に入ってます。大概は、-0.3EVと+0.3EVもしくは-0.7EVと+0.7EVの組み合わせでブラケットしています。

◆撮影に向かう気分のありさ

K-3を持つと、確実に撮影できるという安心感があるのでどういう風な気持ちでいま自分が撮影に臨んでいるかを客観的にみることができます。大体の場合、精密に写し込んでやろうという気分よりも、やさしく雰囲気を包むように写そうという気分でいることが多い。この気持ちはコンタックスのアリアを使っていた時に近い。

なぜそうなるかの理由として、シャッター音やその感触があると思うようになりました。K-3は動作が機敏なのでアリアのようなタイムラグはありませんが、シャッターを押した時の音の余韻や手の振動の伝達がアリアを使っていた頃を(なぜだがわからないが)彷彿とさせます。逆にいうと、これまでにアリアを使った経験がなかったら、たとえK-3を手にしてもこういう柔らかい写真を撮ろうという気持ちにならなかったかもしれません。

そう考えると、どのような写真の写し方をするかに対して、それまでどういうカメラを使ってきたかの経験も影響するものだと思いました。

◆防塵防滴性能、こんなところで発揮

K-3はフィールドカメラであることを打ち出していることから防塵防滴構造をしています。実際、小雨程度の日には写真機をしまうというより、むしろ喜んで持ち出すことが多くなりました。

そのほかに、この性能のおかげで助かったエピソードがあります。これはやってしまったな、という話です。

肩から下げる半月形をした胃袋型バッグ、それにいつもデジカメやらウォークマンやら飲み物やらを詰め込んで撮影に出ることが多いのですが、その時もK-3に16-85のズームをつけて歩いていました。と、何となく腰のあたりがヒンヤリするので何かと思ったら、カバンの中に500mLミネラルウォータをキャップを外したまま入れてしまっている。自分のズボンもびっしょりだが、バッグの中はジャボジャボ状態。当然K-3も潜水艦のようにつかっている。こりゃアウトだと思いましたが、レンズもK-3も問題なく作動したのにはビックリしました。以前、FGで同じように水がかかったときにシャッターユニットを交換する羽目になった苦い経験があったので、いくら防滴とはいえ何事もなくすんで良かったです。と、同時に別の安堵感も生まれました。実は自分がはからずも失禁してしまったかと思ったのだが、ミネラルウォータの水漏れで一安心。まあ、外からみたらズボンが濡れているので「アイツ、やったな」と勘違いされていたとしても仕方ありませんが。

ここに気を良くして、海の浜辺でちゃぽちゃぽしていた時に水越しに見える海底の様子が気に入り、K-3を海面から下にドップリつけて撮影したりしたこともあります。それでも大丈夫。ただ、電池ブタのあたりに塩が残ったりしたので次もやろうとは思いませんが。

◆サービス窓口の対応に びっくり

K-3を使っていて、ちょっとした不具合を見つけたことがあります。プログラム露出で撮影しているときに、ダイヤル操作でプログラムシフトができなくなる、というものでした。ペンタックスのプログラムモードというのはハイパープログラムという独特な制御をしており、二つあるダイヤルのうちどちらかを回すとシャッター優先モードになり、もう一方を回すと絞り優先モードになります。しかし、他社で普通の制御つまりプログラムシフトをダイヤルに割り当てることもできます。ハイパープログラムが標準なので、わざわざその設定を変えてまでプログラムシフトにこだわる人はいない、というのがペンタックスの見方だったと思うので、重箱のスミをつつくようで申訳ない気持ちもあったが東京のサービスセンターに連絡してみました。

原因は、デジカメ内のファームウェアをアップデートした時に伴うバグということが判明しましたが、びっくりしたのはその後の対応です。次のアップデートまでもうすぐなので、その時に直しますと返答が来ました。こんな、重箱のスミを、全機対応のファームウェアアップデートで修正しなおしてくれるのか半信半疑でしたが本当に治っていたのには驚きました。こんな声まで吸い上げるのか、と。

以前、キャノンの対応としてEOS7の視線入力がうまく作動しない原因がオートフォーカスセンサに工場出荷時からついていた汚れにあったことを書きました。そして、そのときの大阪サービスセンターの某氏のつれない対応のことも。そんな過去のある身としてはペンタックスの対応は全く逆、究極のお客様第一。

こういうメーカがまだ国内にあるのだな、と大変感動した経験でした。

◆交換レンズ標準機

K-3は光線を情報漏れ無くくみ取るので、レンズの差がはっきりとわかります。いろいろ使っているレンズの中で、K-3を使うなら外せないレンズを紹介します。マニュアルレンズも面白いでしょうがオートフォーカスレンズの中から選んでみます。

1)ペンタックス FA31mm リミテッド

このレンズは20年ほど前にフィルムカメラ用に設計された広角レンズです。APS-CフォーマットのK-3につけると焦点距離が46mm相当となり標準レンズとして使えます。レンズの周辺部分をムダにする贅沢な使い方にはなりますが、46mmという50mmよりすこし引いてみる画角の感覚が、対象に向き合う時に客観性と冷静さを与えるためか大変使いやすいです。50mmそのものよりも、たった4mmの違いだけでこれほど違うのは面白いことです。

画質は開放絞りf1.8から実用になるコントラストの高い描写であり、f2.5くらいまで絞ると対象が浮立ち背景がフワっとボケる、このレンズにしか出来ない上品な描写を連発します。特に、ボケた領域が均質でクセがないので、実物を見ているというより、何か名画でも見たような気にさせます。実は、このような描写は高価な望遠レンズを手に入れれば出てくるものかもしれませんが、これを46mmという引き感のある標準レンズ画角で成し遂げているところに、このレンズ唯一の存在価値があります。ただ、この描写はK-3でないと完璧に再現できないかもしれません。パープルフリンジが盛大に出ますが、出るなら出たで残せばよか、と思わせる何かがあります。

なお、このレンズには初期の頃の日本製と、現在のベトナム製の二つがあります。手持ちのレンズはベトナム製でしっかり写ります。製作精度としては日本製の方がガタが少ないです。当方のモノも鏡筒のガタが気になったので買った直後に修理に出してカタづめをしてもらっています。

FA31mmの性能を活かし切るカメラが、フィルム時代も通してようやくK-3として実現したと思っています。両者を組み合わせたバランスも手にとって心地よく、単焦点ではもっとも活用するレンズです。このレンズを使うまでは、ツァイスの50mmf1.4プラナ-とコンタックスRXの組み合わせが好きな写真が取れる最適組み合わせでしたが、それ以上に光線を画に変換する力がある最強タッグです。

双方を中古で良いから手にいれることから写真を始めると、大変幸せなデジカメライフスタートになると思います。46mmでf1.8でAPSーCサイズの組み合わせは、画角や深度の使いやすさだけでなく、持ち運ぶ大きさがコンパクトなため外に出て写真を撮ろうという気にさせるからです。そして、出てくる写真の上品でしっかりした仕上がりは光線を捉える事の楽しみを倍加させます。

2)ペンタックス 16-85ズーム

これはf値が3.5~5.6と暗く、昔の「暗いレンズは廉価品で性能もそこそこ、だけど小さくて軽い」というイメージに反して「値段高い、性能抜群、でかくて重い」という、特異点的異形のレンズです。K-3とは同じ異形同士なためか相性が良い。

相性の良さの例として;

・どちらも防滴:ジャボンと漬かるくらいなら平気だった。防滴を超えたレベルを達成してるのではないか。ジャボンは敢えてやることでないが。

・K-3がソフトな絵作りなのに対し、このズームはどのズーム域でもキリリと引き締まった像を結ぶ。その割にボケ味は点光源をのぞきクセが無く2線ボケの傾向がない。結果として、シャープだが温もりのある写真にしながる。

・K-3はISO感度を800以下に抑えて使いたいが、このズームはf値が暗いながらも開放からシャープなため、絞り込むことなく開放だけでも十分写真として成立する。加えて、レンズを持つ左手とK-3を持つ右手にそれぞれ配分される重量が適切で保持がしっかりし低速シャッターでもブレにくい。「開放多用+低速シャッタ-OK」の結果として、上限感度をISO800にしても、撮れる光の範囲は結構広い。

・ピントリングが後ろにあるので、意識せずに指に触れてピントをずらしてしまう危険が少ない(17-70f4ズームの時はピントリングにすぐ指が触れてしまってました)。

・K-3を持つとなぜか撮りたくなる標準画角域、ここでの歪曲や光量落ちを全く感じない。これも17-70ズームの弱点でした。

 ときりがありませんが、一言で言って「まあ、とにかくレンズの光学性能が非常に高い。そして、これもK-3の光線なんでも拾いこみ性能があって完璧に活きる」といえます。

3) ペンタックス 55-300 f4-5.6 PLM

このレンズも、各焦点域で十分に鑑賞写真として成立してしまう光学性能を持っています。加えて沈胴式でコンパクトになるので、小型であるK-3と共に持ち運ぶのに適しています。そして、PLMという新しいフォーカス機構によって、ピントが合うまでの速度が大変早くストレスを感じることがありません。

◆こんな写真機が今後も続きますように

K-3はバリアングル液晶を備えているわけでもなく、WIFI通信が単独でできるわけでもありません。いろんなシチュエーションでの記録としての写真を共有し合うという目的からは遠い処にいるデジカメです。しかし、その目的、デジカメでなくてもスマートフォンでもできるわけです。

となると、写真本来の光線の連なりを絵に変換して感動を留める、という別の目的に目を向けるとK-3はそこに非常に真面目に向き合い且つその到達点に達しているともいえます。それも、日常とり扱える大きさの中で。

そこに向けたリコーと旧ペンタックスの方々の製品でも商品でもなく写真機そのものを出そうという気概を感じるためにも一度でもK-3を手に持つ人が増えれば嬉しいと思います。あれ、これは手に吸い付く、と感動してもらえると思います。そして、あれこれいじるカメラ趣味に行くか、立体感ある写真を撮りためる写真趣味に行くか、いろいろ道は分かれるでしょう。

ただ、リコーの中での業績は芳しくなくコンタックスのように無くなってしまわないかの心配もあります。そうならないために、更に優れた写真機が継続して世に出るためにこれからもペンタックスを使い続けたいと思います。思えば、10年前、SONYのアルファを買うつもりがデザインは変だがエルゴノミクスの使いやすさだけでK20Dを選んだことに間違いがなかったことがこのK-3で証明されたのですから。真面目に光に向き合う写真機、これからも残って欲しいと思っています。

 

 

◇次回:小さくて良く写る。そしてネットリしている。