まど猫スケッチ

カメラを手に感じてきた雑感を回想する

標準ズームのお話(5) あれから40年

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ニコンZ7Ⅱ 24-120mm F4

◆標準レンズと○○タックス

 ○○タックスと言えばコンタックスペンタックス、この2つのメーカに私が共通して感じていたのは単焦点ほどにはズームレンズへのこだわりが少ないということだった。

 単焦点に限れば、これまで使った中でプラナー50mmf1.4とFA31mmf1.8は本当にお気に入りのレンズであった。こんなもの撮ってどうすんの、みたいな被写体を注意が向いただけで撮ったあとプリントしたときに自己満足以上の喜びを与えてくれた。普通のレンズだとこんなもので終わってしまうのが、である。

 たぶん色や階調の重なり方が現実そのままを超えた何かを導いているようなのだが、残念ながら実用的な面で出番が多い標準ズームレンズにおいてはそうではなかった。

 ペンタックスの標準ズームの中で16-85mmのシャープ感と透明感には感嘆したが、ボケの硬さへの対処や常につきまとう片ボケ頻発の工作精度をみると設計的素養が単焦点レンズのように生かされているとは言いづらい。

 コンタックスについては一眼レフについては良い標準ズームレンズもあるが、小型カメラに一体で付いている標準ズームレンズの性能は大変低い印象しかなかった。カールツァイスの名とソコソコの値段設定に期待すると結構トンデモな代物であった。当時の小型カメラのレンズは似たようなものであったかもしれないがブランド名に頼って何か大切なものを疎かにし始めたような気配を感じた。

◆標準ズームレンズに見える姿勢

 さて。

 デジカメ一眼レフのフルサイズを考えるにあたりペンタックスからニコンへと移行した理由は、K-1というカメラの操作系の冗長性が一因であった。

 そして、もう一つがズームレンズ開発という点におけるペンタックスのスタンスであった。初めて組み合わせる標準ズームレンズが別マウントでタムロンが既出していたレンズのOEMだったのである。

 自前のレンズが軸として通った後でのことなら文句はないが、初めて出すフルサイズのカメラであればその標準ズームも自前設計としメーカとしての矜持を示してくると思っていた。そうでなかったことから、写真機材メーカとして今後続けていく技術的余裕が無いかのように思ってしまった。今後もまた写真趣味を続けていく身にとって、それは余り良いことではなかったのである。

 ペンタックスコンタックスは好きではあったがそこに留まるよりも安心して続けていけること それがニコンに戻るきっかけにもなった。 

◆D750に最初につけたズームレンズ

 キャノン、ニコン、そしてソニーと有った中でニコンを選んだのはシャッターの感触を始めとする操作フィーリングの良さにあった。手の中の収まりが良く、ずっと触っていたい・操作していたい気にさせたのがD750だった。

 ところが、組み合わせズームレンズとして選んだのは、ニッコールではなく便利だけが売り物と思っていたタムロンの28-300mmf3.5ー6.3の高倍率ズームだった。

 なんということはない、ニッコールは見た目がデブッチョで格好悪かったのである。デブッチョとはどういうものか、毎日風呂上がりに鏡を見ているので私は良くわかっている。そこから趣味の間だけでも逃げたい、という一心もあった。

 手ブレ補正機構があるためとか理由はあるにせよ、鏡筒が私には異様に太く見えた。そして、Fマウントの口径が小さいものだからその根本に向かってデブッチョを一挙にすぼめねばならない。

 このすぼめの部分のキュキュッとなっている部分が嫌いだった。絵に描いて説明できないので口述すると、東京12チャンネルで放映していたシンドバッドがマジックベルトをキュッと締めている様子とでも言おうか。でも、そんな好き嫌いを言い出したら、もっともこのすぼめ部分がイヤだったのはニコンさんのレンズ設計の方々だったであろうと思う。剛健なニコンのイメージをデブッチョレンズは台無しにすること間違いなし、いつの間にかD750やD850といったカメラ本体までもがデブッチョに仲間いりしている図は耐えられなかったのではないだろうか。

 そんなデブッチョでないレンズ、でも中年は過ぎとるねの体型を持っていたのがタムロンの高倍率ズームだった。

タムロン高倍率ズームの超絶コストパフォーマンス

 このレンズを手にしたのは、いつものヨドバシカメラであった。

 最初は、ペンタックスF2.8標準ズームと同じレンズ構成のニコンFマウント版タムロンを買うつもりでいた。しかし、これも太めであった。

 これをD750に付けた図を想像すると、ワタナベトオル+サカキバライクエになってしまう、どっちがどっちかはさておき。それにやはり重い。

 そんなおりに、同じブースにあって当時5万円という値段だった高倍率ズームに目がいった。なんたって握れる程度には細い。そして安い。軽い。

 昔の高倍率ズームの印象があったから、覗けば周辺はガタ落ちの暗さで歪曲もすごいだろうと思っていたがD750越しに見た光景は全く違うものだった。どちらも無いのである。

 無い。というのは全く無いわけではないが、少なくとも私の想像していた「コレくらいはあるだろう、だって高倍率だもん」の1/10以下であった。何コレ?と思いつつ、次に手ブレ補正の効き具合を試してみたらこれも「止まる」である。

 もちろん、300mmの望遠端で1/30秒では当たったり外れたりだが、200mmだとほぼ止まる。これには驚いた。そして、このレンズが最初にD750に組み合わせたズームレンズとなった。見た目のマッチングもヤスシ+キヨシくらいに合っていた。

 このレンズは解像力もそこそこあり、どの焦点域でも私の使い方では満足な結果を残してくれた。ライトルームを使って修正する作業にも破綻なく応えてくれた。

 巷には、やはり周辺に甘さがあるという声もあるようだったが、ペンタックスのズームを通しで使ってきた身からすれば問題にするようなレベルではなかった。

 しかし、使うにつれピント機構の甘さが顔を覗かせるようになってきた。

 オートフォーカスがなかなか動かないことが散発してきたのである。こういうことはレンズメーカのものではあり得ることは覚悟していた。キャノンのフイルム一眼レフで使ったシグマの物は2つが2つともフォーカス不能になったことがあるからである。

 大変気分良く使ってきたタムロンレンズであったが、恐る恐る使うようでは趣味どころではない。修理に出すというのも一考ではあるがたぶんに純正でない部分の宿命を感じ取った私は、いよいよ純正か、デブッチョかあ~と思っていた時にすでに発売されていたニコンのミラーレスZ6とZ7に気分が向いていった。この2台はとびきりハンサムでは無かったが、底しれぬ安定感みたいな物を往年のFMやFEのように発散していたのであった。そして、標準レンズ24-70mmF4と組み合わせた図はソウタケシ+ソウシゲルのようにスポーツ感あふれるモノに私には思えた。

 そして、Z7Ⅱへのマイナーチェンジから少し遅れたタイミングで発表になったのが

ニッコールZマウント 24-120mmF4であった。

◆ズームという枠が消えた

 私が初めて手にしたズームレンズはニッコールEシリーズ36-72mm F3.5、それから40年を経て同じくニッコールという名のもとにこのZマウントズームを購入した。

 このレンズが発売されていなかったらZ7Ⅱを買っていなかったかもしれない。というほどに、このレンズの発表時からその出来栄えについては根拠なき確信をもっていた。

 一つの理由は、Z7Ⅱを手にする前にZ50を使っていてそのキットレンズであった16-50mmズームレンズの性能の高さを知っていたということがある。

 とにかくシャープでありながら、ボケたところはガサつかずに自然な見え方をしている。歪曲があっても後での修正が十分楽な範囲に留まる。

 ただ、このレンズは沈胴式であったため撮影までにレンズ位置を繰り出すという一手間が面倒であった。フルサイズ用の24-70F4キットレンズもその写りの良さはニコンの作例写真から見て取れたものの同じく沈胴式であったことが私にとってはネックであった。

 新しい24-120mmF4はこの点で普通のナリをしていたので操作時に繰り出すという作法をせずにすぐ撮影に移れる。そして5倍比の焦点域距離というのも大きい。

 ズーム比は広がれば広がるほど嬉しい。

 最初は2倍ズーム、それでも喜んでいたものだが35-105mmの3倍ズームとなり、その広角端が28-105mmと広がり、とうとう24-120mmまでくると普段は50mm近辺を使うことが多い身からすれば十分である。広角端、望遠端が本当に広角レンズ、望遠レンズの感覚で使える。しかも、APS-Cサイズへのクロップ機構がカメラにあるので望遠端は180mm相当に拡大でき、これはもはや24-200mmをf4通しで使うような気分になれる。

 そして、そのF4の開放絞りから完全に実用になる、というかすさまじい解像力を示す。そのくせ、ボケの不自然さはなくうまくまとめられている。さらには、最短撮影距離も全焦点域で35cmと小さい。

 Z7Ⅱと組み合わせたシルエットも決まっており、完全にデブッチョの呪縛が解けたことを示している。そして、軽い。

 も~、これ以上何を望むの? というレンズになってしまっていて、ズームだ単焦点だという枠を完全に超えた存在になっている。

 一切の妥協なく、かつ一切の誇張もない。

 もちろん、デジタルカメラゆえのボディ側との補正協調はあるだろうが超安定画質。これにしっくりくるズームリング、ピントリング、コントロールリングの操作味付けが加わり撮影していて本当に楽しい。

 ただ一点、文句をつけるとすればL-functionボタンを押した時の感触がペチッとしているのだけが残念。無音だと操作の判別がつかないから敢えてペチッを残したのだろうか。

 あとは壊れるまでこのレンズを使い続けていきたい。

 なんだかニッコールの宣伝のようになってしまったが、本当にこのレンズには驚いた。この設計でキャノンやソニーのマウント用に売ったら世界中このレンズばかりになりそうだが、どっこいZマウントというフランジバックの短さゆえに出来たことを思えばなかなかそうはいかないようだ。でも、ある国からリバースエンジニアリングで許可なく出てくるかも。。

 

  おしまい。        22年11月15日。