まど猫スケッチ

カメラを手に感じてきた雑感を回想する

その32.ニコンP310で寄り道

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◆出会い

このニコンP310も、お決まりの「アウトレット破格値につられ衝動買いパターン」に沿って購入とあいなりました。前から見たNIKONの文字の掘り込みが深くオトナの雰囲気100%。それでいて、小さい、安い。ろくすっぽ操作を確認することもなく、気づいた時にはNIKONの紙バッグを下げていました。

◆品位あるデザイン 文字表記にその意気込みをみる

P310もコンパクトデジカメの作法に従いレンズはヒャクメルゲでカバーされています。しかし、ヒャクメルゲのヒダヒダが上下とも1枚だけなので、全体のバランスを崩すことなくうまくおさまっています。

全体にスクエアで、黒でマットな仕上げ、そしてなによりも各ボディパーツの精度が高いので高級感があります。そしてひときわ美しいのが、NIKONというブランド文字の掘り込み塗装。掘り込み方がザックリでなく曲面を描いていて、そこに光沢のある厚みたっぷりのインクが乗っています。その出来栄えにはホレボレしました。

文字を見ていてそれ以外に気づいたところでは、白文字のインクを明るさやツヤで3パターンに分けてモードダイヤルや背面ボタンの表記に使っています。この手間をかけたことで、全体を見渡した時の品格がグッと高まって見えます。

◆見た目どおりの操作感で心地よい ただ、機能ボタンが惜しい

実際に手にもってみると、ボディが薄いながら右手が触れるところにゴムの滑り止めがはってあるので手からすっぽり落ちる失敗は起こりにくくなっています。

起動や操作はキビキビと速く、画像サイズも小さい方では640×480まで用意してあるので、メモする写真機としては良くできています。

ただ、もう少し意図通りに写そうと思うとISO設定やホワイトバランス設定を変えたくなりますが、背面にその機能に相当するボタンがなくメニューを呼び出して行わないといけないのは少々面倒に感じました。

その対応として、このP310には、前面にFn(ファンクション)ボタンがあり、そこに好きな機能を割り当てることができるのでISO設定をそのボタンに登録すればダイレクトに操作できるようになります。

しかし、Fnボタンというのは自分が何を登録したのかを忘れてしまうことが多く、設定の自由度がある反面、実は使いづらさを感じたりもします。できれば専用のボタンでISOやホワイトバランスの設定ができたら、と思いました。それが出来ているコンパクトデジカメもよそにはあるので。

さて、この写真機の操作感でもっとも気に入ったところ。それはストロボです。ボディ左横のバネスイッチをリリ-スすると上面に格納された部分が角度を上向きにしつつポップアップするだけですが、操作した時のブレのない節度感、目にもとまらぬ早い作動、ポップアップ後の形状バランス、そして使用後にストロボを指で格納し直す感触、そのどれもがすばらしい。この部分だけをずっとさわっていたくなります。

その他、ダイヤル、ボタン、どれもがペチペチした安っぽさとは無縁で実に心地良いものです。価格がこれより上であっても、この感触を得られる写真機はそうそう無いと今でも思います。

ところで、ボディをムリに左右にグイグイねじるときしみます。そんな使い方は撮影とは関係ないと言ってしまえばそれまでですが、ここまで品位が高いと剛性もガッチンガッチンしてると思いたいところ、少し残念でした。

◆撮影してみて

撮影するときは、これも2012年当時の小型デジカメなので内蔵ファインダみたいなものはなく、背面の液晶で対象や光線をみてシャッタを切ります。その液晶には92万ドットの高精細なものを奢っており、ニコンとしての意地が伺えました。

ところが、精細というからには対象がよりリアルに捉えらえることを 期待したのですが、そうは感じきれなかった。理由の一つはオートでのホワイトバランスが黄色や緑によりすぎた気がしたこと、もう一つはハイライトの飛びが目立つためです。

一つ目の理由について、小型デジカメにホワイトバランスの精度を求めるのは酷という意見もありますが、高品位な造形をして画質優先をカタログで謳う製品ならばもう少し煮詰めて欲しかったところです。というのは、P310はRAW保存がないのでアトでホワイトバランスをいじることができないのです。

ただし、マニュアルプリセットを使えば満足できるレベルになるし、プリセットの仕方も他のデジカメより簡単なので、これは使い方で対処することができました。

もう一つのハイライトの飛びが目立つ点は、液晶の調整範囲が明るさしかないのでどうしようもありません。さらには、暗いところでのフラッシュレートが低くカクカクした画像表示ともあいまって、色鉛筆の紙芝居のように感じ始めると撮影意欲は一挙に減退。一言で言うと、撮る楽しさが感じられないのでした。

デジカメによっては、パソコンやテレビに取り込んでみるよりも背面液晶で見た方が見栄えがするモノもありますが、撮影する気にさせるという意味でそれは大事なことです。液晶が理由で写す気がおきずに写真機が棚の中でプラプラしていたのでは、これだけ詰め込んだ技術や努力がパーになってしまいますから。

写す気を起こす写真機であったか否か。個人的には、それは撮影したあとの写真をみれば一目瞭然でわかります。なぜか、写す気にさせる写真機で撮るとタテ位置の写真の比率がグッと増えるからです。横位置の比率が高いデジカメの場合、タテ位置で撮ろうとか、しゃがんで撮ろうとか、無意識に頭に浮かぶまえに撮り終わっていることが多いです。

◆そして、画質

最後に、もっとも優先したという画質についてふれます。1/2.3インチという小さな撮像素子を使っているわりには解像度もありノイズも低い。良く撮れるデジカメです。画像の鑑賞倍率をどんどん拡大していっても、結構くっきり写っていることにはむしろ驚かされました。

ところが、諧調の滑らかさが足りないのか、色彩コントラストがぼやけているのか、すっきりした透明感が足りない気がしました。わずかににごったプラスチックレンズのメガネをかけて対象を見たような感じで、クッキリとは写っているが自分がクッキリと写したい方向ではなく途中に処理装置が介在しているというか。

1/2.3のデジカメにそこを期待するのはおかしいかというと、そうではない。というのは、同じ撮像素子サイズのペンタックスQがそこをクリアしているからです。どういう記録を残すか、写真なのかメモなのか。Qについてもう少し振り返れば、拡大して見た時のクッキリ感はP310より劣ります。しかし、キャビネ程度でのリアル感ではこっちの方が自然です。

P310の目指す方向は、その高品位な操作感やデザインや精度からして、Qと同じ写真リアル感を追及することだったと思いたいですが、でてきたものは高精細メモ機に感じました。

◆撮る楽しさ について

高品位で操作感もよかったP310でしたが、撮ろうとして液晶のトビトビ感にがっかり、写してみて色鉛筆的描写に首をひねる。撮る楽しさを感じることは出来ずに、今は小型高性能メモ機として手元においています。操作していて壊れそうな印象を全く受けず、確実に記録できますから。

ただ、それで終わるなら、こんな写真道楽に期待持たせる格好にしなくても良かったのにと思います、見た目は英国紳士、じつはホリが滅茶苦茶深いだけのべらんめえしか話せない日本人みたいなチグハグな印象で終わってしまいました。

ニコン様といえば、機構も高品位、デザインも高品位、操作も高品位、吐き出す結果は更に輪をかけて高品位 と信じていだけに、この最後の部分、P310では少し世間を見て指向が寄り道してしまったのかなと感じます。同じ寄り道するなら世間を見ずにペンタックスを見ればよかったのに。もっというと、真似すれば良かったのに。

◇次回:いまどき真鍮のボディ、そのナゾに迫る。