まど猫スケッチ

カメラを手に感じてきた雑感を回想する

その33.MX-1 重さは正義か

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◆出会い

カメラ雑誌の記事でこのデザインを見たとき、目についたのは真鍮で覆われた古典的な外形よりも、手に持って右手で操作しやすい位置にある露出補正ダイヤルでした。

露出のプラスマイナスで写真の印象は大きく変わってしまいますが、だからといって手軽さが身上のコンパクトデジカメに専用のダイヤルをつけてきたことにペンタックスの心意気を感じました。

NikonP310も露出補正そのものはできます。だが、そのためにはボタンを一度押してその機能を呼び出す手間があったことを思えば、MX-1は場所も限られるコンパクトなガタイに良くも専用ダイヤルを載せたものだと思います。

実際に触ってみると、それ以外にもディスプレイが低照度でもスムーズに表示されることや、チルト式のモニタがあるので御腹の位置で写真を撮るには便利なことがわかりました。各種の設定メニューは自分が慣れたペンタックス一眼を踏襲していることから使いやすさに魅力を感じ、ネットで最も安い販価をさがし購入しました。2万5千円だったと思います。

◆画質:極めて高い評判

価格.comやアマゾンのレビューを見ると画質に対する満足度は非常に高いものがありました。独特なデザインだけにカタチへのコメントが多いのかと思いましたが、写真そのもののレベルの高さが評価されたデジカメでした。

その大きな要因としては、F1.8から2.5の明るさであるにも関わらずコントラストが高くシャープ、そして歪曲も少ないレンズの優秀さがあります。とにかく、使っていてレンズの甘さを感じない、というかレンズを意識することなく対象に向かい合える安心感がありました。

そして、それだけでなく、ペンタックスらしい色再現と諧調表現、それを実現する画像処理がこのMX-1にもしっかり生かされていることが画質の良いもう一つの理由と思います。それまでにペンタックスのデジカメを選んできた人は少ないでしょうから、他メーカのコンパクトカメラの色の浅さとか諧調の狭さとか濁りのある色調に慣れた後で、透明感と立体感のあるペンタックスの絵作りに驚く人もいたことでしょう。

実際に写した時の印象でも、晴天時に写したものを見るとペンタックスのK-5やKrで写した場合とパッと見には変わらない印象を受けました。

 細かいことをいえば、画像を拡大していった時の解像感はさすがに一眼レフには及びませんし、iso感度が400を超えるとノイズのザラザラしたところが目についてきます。800になると、ライトルームでの修正も簡単にはいきません。

しかし写真1枚をテレビやパソコンの画面一杯あるいは印刷一枚で見る普通の見方をするならば、諧調がなだらかにつながっているので撮影された対象に引き込まれるような質感を感じることが出来ました。特に、カスタムイメージをB&Wモードにして撮影すると大変格調の高いモノクロ写真が撮れました。

◆使い勝手

写したあとは素晴らしい、として、写す前はどうかという話になるとコレがそう簡単には褒められない処が出てきます。いくつかあるので箇条書きすると、

①首からぶら下げることを考えていない。

重さも横幅もあってコンパクトデジカメというには大きいサイズなので、ポケットから取り出して使うことはできず首から両吊りで下げて持ち運ぶのですが、その吊輪の位置が前にありすぎてMX-1の重心の位置からズレています。そのため、首から下げるとMX-1が常に上を向いた不格好な状態になります=あまりにもカッコ悪すぎてぶらさげられない。

②レスポンスが遅い。

起動からシャッタを押すまでにかかる時間、それと撮影してから画像が保存されるまでの時間が遅い。重さや大きさが一眼レフとコンパクトの中間くらいなので、勝手といってはナンであるが、レスポンスもそのあたりかなと思うとそんなことなく大変遅く感じる。この意外さに拍子抜けして、撮影に向かう意欲がそがれてしまうのです。

③夜間照明下でのオートホワイトバランスが暖色に偏りすぎる。

ホワイトバランスは概ね良好で、とくに晴天のバランスは良く調整されていますが夜間照明(電灯、蛍光灯、LEDなど)のもとでのオートホワイトバランスが橙色に偏る。そういう場合はホワイトバランスをオートにせず照明に適したモノを選んだらどげんですか?というのも分かるが、ペンタックスの他のカメラではオートでも十分使えるので「そうでないこと」の意外さにこれもまた拍子抜けしてしまいます。実際、気軽が身上のコンパクトカメラでホワイトバンランスモードをいちいち変えるのは手間でもあります。

そして、そのホワイトバランスを変えようと思っても、背面のボタンに設定されてないのでINFOボタンを押してから選ぶか、メニュー階層に入って変更するか、と更に手間のかかる作法が必要になります。

④極め付け:撮ったすぐあとの画像を削除できない

フィルムとは違うデジカメの使い方として自分に身についたのが、撮ったあと背面液晶にプレビューされた像を見て、”気に入らなければすぐに削除する。”、という写真道の風上にもおけない下劣で姑息なルーチーンなのですがMX-1はこれができない。撮ったあとに「イマイチだな」と舌打ちしながら削除ボタンを押してもウンともスンとも反応しない。一度再生ボタンを押すことで画像をSDカードに保存(前述、これが時間かかる)させたあとでないと出来なくなっています。まあ、撮った写真を保存する前に知らずに消すことがないための配慮なのかもしれませんが、姑息ルーチーンからしたら面倒以外の何物でもありません。

⑤大したことないけど。。:撮影するときよりも保存された後の露出が明るい

カラーで撮っても、白黒で撮っても、上の現象がおきます。MX-1のこのクセを見込んでおいて、撮影するときのイメージから脳内変換で撮影後のできあがりを想定し、露出ダイヤルで撮影時に暗めに調整しとけば良いのですが、こんなことを撮影者にさせるのはコンパクトデジカメとしてどうなんだろう?と思ってしまいます。

⑥敢えて触れると:なぜ真鍮?なぜ重い?

MX-1の外装には真鍮が使われていてこれが重量を重たくしています。真鍮といえば、昔はキャノンFTbを含めどのカメラの金属外装にも使われていましたが、今ではアルミやマグネシウムがあるので真鍮を使うのはこのデジカメ以外には見当たりません。文房具を扱う伊東屋のシャーペンに真鍮で出来ているものがありますが、丈夫でプラスチックやアルミには無い剛性感とヒンヤリ感を味わえる代わりに、明らかに重い※。すなわち、同じ素材のMX-1も明らかに重い。

で、その重さが撮影する行為において必要かといえば、オデコあるいは厚ぼったい一重マブタをファインダに密着させる場合ならば写真機をより安定させる意味で「アリ。」といえます。しかし、ファインダのない場合は、両手の間でカメラを挟んでいるだけなのでもともとホールディングがプルプルしており重さ分の制振効果が得られるとは思えません。

となれば、素材の頑丈さのための重さという見方もできますが、それはチタンやマグネシウムとは言わないまでもアルミ合金では駄目なのかと考えてしまう。成型絞りが単純に見えるので。

使い込んでいくうちに、真鍮の地金が見えてそれがかっこいいという声もありますが、そのためだけに重さが増分することのデメリットを甘受できるかという問題になります。

ただ、塗装は大変に綺麗です。ヌラーと均質な黒が塗られていて、これは他の素材では実現できないであろう非常に美しいものです。それでも、そのためだけの重さ? の思いは消えない。 

※(番外)伊東屋の真鍮製シャーペン..気にいってます。理由はペン軸のどこを持っても安定して文字や絵や線を書け(あるいは描け)、手の延長のように扱うことが出来るからです。

MX-1は大まかな設計やデザインを終えて使う立場でチューニングするときに、何か抜けていたのではないかと思ってしまいます。ペンタックスのカメラはおしなべて使う立場を良くわかった操作感を実現しているので、なおさら意外に感じてしまう。

◆最大のライバル:ペンタックス Qシリーズ

MX-1の撮像素子は1/1.7インチです。ということは、同じペンタックスのミラーレス一眼のQシリーズと同一です。ここで、互いにバッティングしないか?と変な心配をしてしまいます。

というのは、Qの標準ズームの画角が35mm換算で23~69mm(f値2.8~4.5)、MX-1レンズが28~112mm(f値1.8~2.5)。Qよりも数値だけみるとMX-1のレンズの方がズーム比が大きく且つ明るい=使いやすい。

それだけでなく、実際の画質でみてもQの標準ズームよりもコントラスト、シャープネス、諧調のいずれもMX-1のレンズの方が実写してみる限りでは、明らかに優れていると感じました。

つまり、MX-1みたいな画質のすこぶる良いコンパクトデジカメがあると、同じ銘柄のレンズ群までそろえてしまっているミラーレス一眼を喰ってしまうことになり気弱な者としては気が気でならなかったわけです。

しかし、先ほどあげた使い勝手の疑問点①~⑥、これはQシリーズでは見事に解消されています。大きさはQシリーズの方がMX-1より小さく軽いのですが、アレは紛れもなく一眼レフの系譜につながる設計がされていてコンパクトデジカメとは別物です。

そして、画質。実はQの標準ズームの出来がいま一つなだけで、標準単焦点レンズをつけると画質の優位性は逆転します。さきほど挙げたコントラスト、シャープネス、諧調の3項目どれもQの単焦点レンズPRIME01の方がすぐれています。

ということで、個人的な印象の範囲ですがQの存在によってMX-1のどっちつかず感が逆に露呈してしまった気がしました。また、Qのレンズは保護フィルタをねじ込むことが出来るが、MX-1ではフィルタ枠が無いのでレンズキャップが必要になります(今では改造してムリヤリ保護フィルタをアロンアルファで接着してしまっていますが)。

Qシリーズか、それともMX-1か? は気にする方もいるとみて価格.comの口コミにも時々出てきていました。MX-1の方がQよりも良いという意見もあり、何を重視するかで見方はいろいろ出来るということだと思います。

◆今のMX-1の使いかた

このブログではカメラの絵を万年筆で書いてますが、それをデジタル化というのかデータとして取り込むのにある時期までのカメラ絵は全てMX-1を使っていました。最高1200万画素でそれほど重たくないうえに、低感度で撮ってさえいればJPEGであっても画質が良く諧調の幅が広いので後でライトルームで加工しても破綻しないからです。(ここ最近のカメラ絵はパナソニックのLX-100で取り込んでいます。)

それ以外の使い方は、白黒写真です。MX-1でカラー写真をとっても画質性能が高いために全く問題ない結果を手に入れることができますが、いかんせん使い勝手の悪さを感じてしまいしっくりこない。

これが白黒写真専用と構えれば、もともと色の自由度ありきという俗世間とは隔絶した世界の中に自らの身をおくことで、これまた俗世間的な尺度にすぎない使い勝手なぞ「もう、どうでも良かではなかとですか」というステージに自分の心をも置くことが出来て、コダワリのない澄み切った写真が撮れるのです。かどうか。

ひとつ言えるのはMX-1の白黒写真は白黒フィルム写真とは全く違うということです。フィルムにはできない表現が立ち現れてくるから不思議です。例えて言うなら、フィルムだと記憶に残るような夢の断片をとらえるような像になるのにたいして、MX-1のB&Wモードだと、夢全体が時間の幅をともなってイメージされるような写り方をする気がします。それが、純機械的に撮像素子や画像処理プログラム、レンズ特性から導き出されるものなのか、それとも古典的形態とヒンヤリした硬質な感触が撮る者に何らかのスイッチを押させた結果によるものなのか、それはわかりません。

重たい真鍮にしたことの見えない効果が、理屈を超えてこの独特のモノクロ像に結びついているのだとしたら、それでもう十分に「重さは正義だ」といえるでしょう。 

◇次回:送る写真でなく、残る写真を撮る。 だけど極力カンタンに。