まど猫スケッチ

カメラを手に感じてきた雑感を回想する

その18.T3 ハイソの終焉

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◆出会い

EOS7の視線にムシされた後もコンタックスRXⅡとプラナ-50mmを使い続けてましたが、いつ巻き上げが壊れるかわからない。リスクへの備えとしてBigミニをサブに置いてはいたものの、それでは画質がフィルムスキャナでの扱いには厳しいなと感じてたところにコンタックスT3が登場しました。おお、このレンズはいけるかも、との期待のもと9マン8センエンもするのに買ってしまいました。

◆ワシの目 ゾナー

タカの目 テッサーという言葉があります。構成枚数は3枚か4枚しかないのにカミソリのようなキレを持つ準広角レンズを指す文句です。でも、T3,このカメラにはテッサーではなく、ツァイスの中望遠系レンズに良く使われるソナーの名が奢られてました。

その写りを一言でいうと 完全に一眼の35mmレンズに肩を並べる。

シャープで諧調も十分、という月並みな表現になりますが、RXⅡとディスタゴン35mmの組み合わせにひけをとらない対象描写力があります。つまり、いつRXⅡが壊れても、このT3をササッと取り出せば、撮影結果として全く不足ありません。ただ、色がコンタックスというかツァイスのイメージからすると寒色系で濃さも油絵よりは色鉛筆に近い感じがしましたが、スキャナ取込後に調整できる範囲です。

同じコンパクトカメラで35mmレンズを備えるBigミニとくらべると、サービス判のプリントで同じ対象を同時に写しただけでもその違いがはっきりわかりました。T3の方が数段高く解像している。 ワシの目 ゾナーです。なぜワシの目かというと、感情の入る間もなく対象をガシッとつかみとる。逆に言うと、アリアのように感情を介在させた写真はできにくいかもしれません。

写ルンです。 100コ分

ところで、値段、高い。モデルチェンジ前の先達T2の12マンエンより値下がりしたと言われても。たとえば、伊達直人が写真を知らない子供たちに写すことの楽しさを教えてあげようと写ルンです。をプレゼントした場合、100人以上の子供たちが喜べる。T3の場合は一人の手にしか渡らない。

それだけの価値をこのカメラから感じ取れたかというと、確かにレンズ性能は素晴らしい。とはいえ たとえば一眼レフと35mm単焦点コンタックス以外で買えばこれより安いかもしれません。いや、この小ささ軽さで実現していることに価値がある。と言われても、レンズ交換できないのだから、この組み合わせで潔しと思えるこのカメラなりの独自の魅力も欲しい。

そこに、自分なりの設定というかコダワリを持って撮ることを可能にする機能性を求めた場合はどうでしょうか。これは少し足りない気がしました。というのは、上面右には絞りダイヤルがついているのですが、電源offから絞りの数値を選択する前にP(プログラム)の位置をヨイショと通過しなければいけない。電源をOnにする前に、自分の好みの絞りに合わせておく、あるいは、電源offしても前の絞り値を変えないで保持してくれている、という当たり前のことができません。速写性を考慮して、電源入れてすぐにPとなるようにしたのかもしれないが、その狙いどおりにPモードしか使わないでいたら、ある日突然気付きました。「やってることが写ルンです。とあまり変わらない」と。もちろん、露出補正やマニュアルピント合わせもできるのですが、絞り優先AE+露出補正をしたい身にとって、電源onしてすぐがプログラム露出では撮影態度の腰が折れてしまうのでした。

レンズ描写以外の魅力。それは機能性ではなくナニか。振り返ってみます。

◆ハイソの波と、その彼方

 T2は使ったことありませんが、大変評判になり、また持っている人も多かったカメラです。T3よりも更に高価ながら、何がそこまで惹きつけたのかを考えると、綺麗な写真を写すだけではなかったと思います。何枚か撮られた写真を見たことありますが、描写は恐らくT3のレンズの方が上です。そして、オートフォーカスの合焦精度もT3の方が高い。T2の写真は、ご本人には言えないが結構ピンボケが多かった。なので、物理的な写りの良さ以外の価値がT2にある。

それは高級小型写真機という記号かもしれません。仮に、同じカメラをキャノンやニコンが出したとしても、その当時の人は高級を連想しにくい。まだ昭和の香りプンプンだった頃の高級品のお約束、①洋物(コンタックス、ツァイス)+②希少性(チタン外装やサファイヤのシャッタボタン)+③洒落っ気(素材組み合わせの妙による意匠性の昇華)+④性能が良い「と期待できるというかしたい」 の4つがジュバッと融合し、小型でありながら高級であるという、まあロレックスやオメガという腕時計に近い小道具としてポンと生まれた気がします。超高級でないが、持っててニンマリする小道具、オメガ的写真機なのか写真機的オメガなのかどっちでもいいけど それが魅力でした。

もろ日本国であることを連想させるメーカ名だと①が成り立たないが、コンタックス(ホントは京都セラミックだから日本古都をひきずっているのだが)だから生まれた。

で、T3です。以上①②③④の軸でいうと、③が弱い。意匠は良くまとまっているが、ひとつ、グリップのラバーを無くしてしまった。もうひとつ、オートフォーカスの測距窓のガラス枠がうんと小さくなってしまった。さらにもうひとつ、レンズバリヤが閉じたとき白っぽくてペラペラに見える。 いろんな素材がギュギュギュと凝縮した感じが希薄になってしまいました。 そして④も。 T3はレンズ性能は文句なしだが、レンズ部分の見せ方がそれを想像しにくい表面処理になっている。ニューと出てくる沈胴の円筒のまわりが味気ないのです。アルミ箔をはったりしてましたが、真面目な性能の良さはともかく、性能が良いように見せるトコロが弱くなってしまいました。

結果、T3はT2ほどの認知を得られず、レンズ描写が良いからといって9マン8センエンもはたく物好きも多くないでしょうから尻すぼみになってしまいました。

時代の流れもあります。ブロンズガラス仕様のマークⅡをハイソカーとしてアチコチで見かけた時は終わり、モノはモノ本来の価値が見直されていく2000年代へ。高級感を価値として保持するのは難しくなっていたと思いますが、京セラはその変化にきづくのが少し遅れたのかもしれません。

◆ハイソの終焉

 T2が呼び起こした高級小型写真機ジャンルには、ニコンコニカミノルタなど日本らしい名前のメーカも一挙に参入しましたが、そのすぐあとにこれまた一挙に撤収を余儀なくされました。その最後のボタンを押したのがT3だったと思います。結局、高級とは何か、という記号の意味がバブル崩壊にともなうハイソの終焉によって大きく様変わりしてしまい、よって立つところを無くしてしまった。

個人的には、T3の写りには十分満足してましたが、これとは違う意味で描写ショックを与えた小型カメラに出会い、3マンエンなりの買取価格で手放してしまいました。それで今後悔しているか、というと何故かそうではない。むしろお気楽操作のペンタックスエスピオミニが手元にないことへの後悔の方が強い。自分にとっての価値は、良く写るということよりも、良く写せそうだ、という事にあるのかもしれません。

◇次回:ひょっとして超えてしまった? フィルムを、一眼レフを。