まど猫スケッチ

カメラを手に感じてきた雑感を回想する

その16.コンタックスRX 王道

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◆出会い

カールツァイスレンズの余裕ある描写と、左手でカメラを構えたまま右手で露出補正できるコンタックスの操作性が気に入りコンタックスをもう一台欲しくなりました。大阪の中古カメラ店でSTとRXを見せてもらい、三脚座がレンズ中心線にあるRXを手に取り3台の中からダイヤル類の操作がもっともスムーズな1台を選びました。

それと同時に、標準レンズのスタンダードと言われるプラナー50mmF1.4も中古で手に入れました。

◆アリアと比較 写りに違いはあるのか

これも趣味のうち、ということでアリアとの比較。同じモノを同じレンズでフィルムにおさめ、両者の違いがあるのかスキャナ通して確認してみました。結果、違いがあるので驚きました、写真はレンズで決まると言ってたはずなのに。

2つの点が違います。一つは、RXだと黒が黒として締まる。ミラーアップ中の遮光処理の差によるものなのか技術的にはわかりませんが、事実としてコントラストがあがります。その分、諧調が犠牲になるわけでないので実在的な立体感が出て迫力が増します。アリアで撮ったときの浮遊感とは別の写真になりました。プラナーの豊富な情報量を汲み取りつくすにはRXの方が向いてますが、テッサーを付けると硬すぎる印象を受けました。

もう一つは解像度の向上、これは理由がつきました。手ブレ耐性です。RXはそもそもが810gとアリア460gに比べ相当に重たく、さらにおさめる電池も下に装着するため構えている間の安定度が違います。そして、ミラーショックもシャッターショックもほとんどありません。50mmプラナーf1.4をf5.6に絞り込んで撮影した像を拡大してみると、中心部はフィルム粒子のギリギリまで解像する性能があります。しかし、ISO100のフィルムだと暗い時にはf5.6でもシャッター速度が1/60くらいになり、ちょっとした手ブレがあると、ブレがあるというより解像感の低下として目にうつります。拡大して初めてそれが手ブレであることがわかりますが、そうでなくキャビネ版程度のプリントだとレンズ性能が低いと勘違いする要因にもなるので、レンズ本来の能力を引き出せるかという意味でカメラの差は大きい、RXはその土台として非常に優れていることがわかりました。

あとは露出制御の違い、RXの方がアンダ気味ですが味付けの範囲だと思います。

◆キャノンFtbと比較 重たいマニュアルカメラの新旧

なぜ、キャノンFtbかというと、RXは94年という20年以上前をもってしても当時の技術本流からは外れたカメラだったため。オートフォーカスでもないし小型軽量でもないRXと比べるとなると、重量や大きさが似たFtbがこれまた40年以上前のカメラではありますが使用経験の中から浮上してきます。機能は当然違うとして、使い心地に新旧差はあるのか。

結果。1、同じような重量とはいえ、重心配置の妙やグリップの有無によりRXは持っていて大変疲れにくい。前述のように手ブレしにくさも違う。2、シャッタの押した印象もRXの方が指先に力を込めずに写せる安心感がある。ただし、シャッタボタンは底をペコッと押す安っぽさもありフィーリングはニコンのnewFM2よりは悪い。

基本的な使い心地の部分で 年月たてば進化していることは十分に感じられました。

◆ファインダで遊ぶ。その1 フォーカスインジケータ万歳

機能に転じると、RXにはRX独自のものとしてフォーカスインジケータがあります。ピントが合焦近くになるとファインダ下部にあるドット的なインジケータが点灯しはじめ焦点が有ったことを確認できます。マニュアルレンズの焦点板でピントを合わせることは目の悪い人にとっては大変な苦労です。そもそも、周辺部で合わせられる目の感度が年のせいで衰えているので、真ん中のスプリットプリズムで合わせたいのだが、ちょっとレンズの開放f値が暗くなるとカゲができて確認できない。

カールツァイスにはマニュアルレンズしかない。一方、コンタックスのような非本流のカメラに手を出すような人は老眼のすすんだオジサンこそに集中しやすい。この互いに求心しつつも離れていくジレンマを解決するのがフォーカスインジケータです。これを見てれば、合焦したところでレンズをグリグリするのを止めればそこでピントがあったことになるからです。

素晴らしい発明のように見えるが、普通のオートフォーカスカメラで普通にできます。オートフォーカスレンズをマニュアルモードにして、手でレンズを回してピントが合えば合焦点が光る機能がついてます、昔から、どのカメラも。何も珍しくない。

RXはそれをマニュアルフォーカスしかできないカメラと割り切った上で載せているのが異質なのです。何しろ、ピント検出にはファインダ系とは別に小さなミラーを用意して専用の光路をこれまた専用の検出センサに導く手間がいります。そこまで苦労するのならオートフォーカス化すれば良い。レンズを動かすのは後はモータさえあればできるのだから。手間のかかる検出までしておきながら、それをオートフォーカスという利便性につなげる一歩手前でやめる、そんな価値あるのか。というと、コンタックスだからあるのです。カールツァイスをどうしても使いたい、しかし目には自信が無いというコアだが一定数はなぜか確保されているオジサン軍団をかかえるコンタックスだからあるのです。そして、その軍団に寄り添うように、RXはただのフォーカスインジケータで済ませていません。ピントが近づいてきた、ピントが遠のいていった、がインジケータの左から右への移動でわかる。絞りの深さによるピントの幅がどの程度かも点灯する数でわかる。それだけか、と冷静に考えるとそれだけなのだが、真っ暗なファインダで浮かぶその様子は、昔にブリジストンや丸石が子供の自転車の後方照明に使っていたやり方、豆電球が荷台の後ろに並び連続的にピカピカ光るあの憧憬を想起させ、もう軍団は狂気乱舞の世界に突入せざるをえないという緻密な商業マーケティングが隠されていた。のかどうか。

実際、このフォーカスインジケータはピントに不安があるときに保証の役割をしてくれたので価値はあると思います。光路を別に敷く分、ファインダ像が暗いという言われ方もされましたが暗いと如実に感じたことは皆無です。むしろ、RXの2代目のRXⅡではこのフォーカスインジケータを外してしまい、その埋め合わせとしてファインダを明るくしたと能書きされてましたが、これも明るくなった印象は全然ありませんでした。

◆ファインダで遊ぶ。 その2 ミノルタ製スクリーンに交換

さんざんインジケータのことを書いたあとで、その必要が無いかもしれないという節操ない話に移ります。何かというとファインダ交換です。

RXのピント焦点板は、オプションの全面マット品などに自分で交換できるようになってます。コンタックス純正のものも当然ありますが、サードパーティでもRXに合うものが出ていてその中から選ぶこともできます。そうして、いくつか交換してみると確かにピントの見え方は大分違う、面白い。そして、その行きつく先はミノルタのファインダスクリーン。98年当時に出ていたα9というカメラ用のM型というスクリーンですが、このマット面のピント合わせがダントツでし易いという話があちこちに載ってました。

コンタックスミノルタというメーカ違いなので、そのままではM型スクリーンを買ってもRXにはつきません。そこで、やすりを使ってスクリーンを削り込みRXに合うように手荒な加工を施し装着しました。一番精度を確保すべきところに、大変雑な処置を施してるわけですが、覗いてみるとピントずれが起きるようなことはなく非常に見やすい。画面の端でも合焦したところがスッと浮き出る感じはこのスクリーンにして初めてわかりました。

すると、撮影の仕方自体が変わります。何しろ、画面のどこでもピントを合わせられるので、中央の測距点でピントを(インジケータも頼りにしつつ)合わせ、フォーカスロックをして画面構成を整え直す手間がない。のぞいて最初に構図を調整し、そのあとでピントを追い込むだけで良い。そのために、集中力をピント合わせやフォーカスロックでなく構図そのものにより深く向けることができる。露出や絞りについて、広く気をまわすこともできる。プラナーがどういう写り方をするかの経験に基づき、画面内の前後距離や位置から最も自分が好きな構図となるよう絵作りに没頭することができる=レンズを最大限にいかしつつ自分の感動を写しとめることが無意識に働き、結果として良い作品が生まれる。いやあ、このファインダの効果は素晴らしかった。実際に写ったものよりファインダに現れるものの方がピント部以外は急峻にボケていくので、像そのものズバリを見せるというファインダではないが、マニュアルフォーカスながらピントがラク、という世界を開いてくれました。

ミノルタのファインダ、コンタックスのカメラ、コダックのネガフィルム、ニコンのスキャナという組み合わせで当時の写真趣味はアナログマニュアルカメラシステムとして満足のいく安定期に入りました。

◆フィルムとのコラボレーション

この頃に良く使っていたフィルムは、コダックのネガフィルムHD400です。色が交差するところの線の出し方が好きで富士フィルムよりもコダックを使う頻度が高かったのですが、HD400はその中でも感度が高いわりに解像度が高く白とびしにくい諧調性も持っていたので気に入って使っていました。未現像のままのフィルムベースを見ると通常のGOLD400とは違う色をしていて、それだけで「これは違うぞ」とワクワクしながらRXに詰め込んでいたことを思い出します。

プラナー50mmf1.4は豊かな諧調性という言われ方を良くされますが、それよりも深みと透明感の両方とも際立つ珍しいレンズという印象が強く、HD400はそれを余すことなく伝える力がありました。感度も高いので、暗い時の撮影や偏向フィルタの使いまわしもラクでした。

 ◆では、1台で勝負できるか

描写の優れたカールツァイス特にプラナー50mmf1.4との相性が抜群なこと、露出補正ダイヤルの位置、ピントの見易さ。もし写真だけで勝負したいとなったらこのRXを選ぶ。かというと、そうはいかない。 信頼性に疑問があるためです。

使っていてどこかが故障したわけではないのですが、シャッターからキシキ音がし始めました。中古だからかもしれないし、それでも写せるのだが、実はそのあとに買い足したRXⅡでも同じ症状が出始めました。

また、キシミ音だけでなく、RXもRXⅡもフィルムで撮影したコマの間が安定しないという問題がありました。スキャナは6枚に切ったフィルムストリップを読み込ませ、一コマ一コマをコマ間の余白を検知し自動判別する仕組みなので、コマ間にバラツキがあるとスキャンのやり直しをするケースも出てきます。フィルムを送るというカメラとして当たり前のところで不具合があると一発勝負の写真は撮れません。もしフィルムのコマが重なったら、とか、もしフィルム送りそのものができなかったら。何をどういう風に撮る以前に何も撮れなくなってしまう。そんな心配をしないといけない。1台で勝負というわけに行かないので、故障したことを考えて側らに別のカメラを共連れしないと不安でした。

そして、信頼性への疑問というのは、こういう機構的なことだけを言っているのではありません。RXのマイナチェンジであるRXⅡであっても、あるまじき不具合を直すことなく世に出してしまっていることに対し、基礎技術への不安とユーザ本位でない品質管理、それらを監査せずに販売している姿勢に対する信頼の揺らぎです。開発する側に、カメラを使う場で最低限何が重要かわかっている人がおられたらこのような問題が直されないまま生産販売されることはないはずで、そうでないこのケースをどうとらえるか。残念ながら、末永くつきあっていくカメラとしてどうかより、メーカとして存続していけないだろうと思ってしまいました。

◆勉強代

コンタックスは決して安いカメラではありませんでした。当時は、中古でさえも、です。他メーカの最新式のオートフォーカスカメラが手に入るのにこの(いつフィルム給送がとまるかわからない)RXを買う意味を今思い起こすと、世の中に描写のすぐれたレンズがあるということを認識させてくれたことです。

コンパクトカメラのレンズであれば、その制約との闘いの中で良し悪しの幅が広いだろうことは想像できても、変形ガウス型のようにガラスの枚数も構造も似た一眼レフのレンズにそうそう差はないだろうと思っていたのでプラナーの写りには本当にびっくりしました。同時に、そのあとのレンズ選びを楽しみとするきっかけにもなっていったのです。

◇次回:一重マブタの腫れぼったい目。それで何が悪い?