まど猫スケッチ

カメラを手に感じてきた雑感を回想する

その27.K-5 ザ・甲冑野郎

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◆出会い

k20Dを出していたペンタックスから、まったくデザインの違うk-7が発売されました。コンパクトで直線的な引き締まったボディ。写真機らしさを感じて「かなり欲しい」と心が動きましたが、いざ触ってみると左手の親指の付け根あたりにオートフォーカス切り替えスイッチの出っ張りが当たるので握っているとちょっと痛い。

手を出さずにいましたが、そのk-7の外観をほとんど変えずに撮像素子をソニー製のCMOSに換装したk-5が登場しました。これも、どうせ痛いだろうなあ、と思いながら店先でいじってみるとやはり痛かった。だから買わなかったかというと、k20Dを下取りにしてバッテリグリップと一緒に購入しました。バッテリグリップをつければ、左手がオートフォーカススイッチと干渉することありませんし。と自分を納得させながら、何のための小さいボディなのか、本末転倒な使い方を始めました。

◆AFの進化:使いこなせる実感

 k20Dオートフォーカスをガチピンで決める事が難しく、純正レンズでさえおぼつかない。それに対し、このk-5はオートフォーカスの精度が格段に向上(体感:25年前EOS ELANの80%くらい)していて、それだけで普通に使える安心感を得ることができました。また、色味も派手ながら諧調が深いペンタックスの特徴は残していて、露出も安定していることから一眼レフらしい使い方として単焦点レンズをとっかえながらの撮影が多かったです。

主に使用したレンズはDA21mm、DA35mmf2.4、コシナの50mmf1.4プラナの3つ。このうち、プラナはマニュアルフォーカスなのでフォーカスインジケータが光ることによってピントを合わせるのですが、インジケータの合焦がいつも近距離側にシフトするのでそれを見込んで遠距離側にグイッとリングをまわして合わせていました。

また、これらのレンズは防水ではないので、全天候型レンズとして18-55mmWRの中古をカメラのキタムラで1万円で仕入れました。このレンズは描写の線が太いところと、鏡筒がスカスカで先端を持つとガクガクして撮影意欲が萎えるのが難点でしたが軽くて乱暴に扱っても心が痛まないということで荷物を軽くしたいときには持ち出してました。

◆のんびり屋さん

このk-5にはk20Dにない新機能としてレンズ性能の自動補正機能がついていました。周辺光量と歪曲収差の改善です。これは特にズームレンズで絶大な威力を発揮します。k-5を手に入れたい衝動の一つが、k20Dに17-70mmのズームをつけていたときに感じた中焦点域での歪曲収差の解消だったので、その性能には期待していました。

ところが。収差を補正する性能自体には文句は無いのだが、jpegでこれをやると処理速度がものすごく遅い。どのくらい遅いかというと、撮影のテンポが崩れるくらい遅い。なので、その対処として、RAWでとって撮りためたら一括jpeg変換の時にレンズ補正をかけるというやり方もしてみました。しかし、これだとSDカードの中にRAWとjpegが入り乱れてわけわかんなくなってしまうジレンマがありました。そこまでするくらいなら、RAWだけで撮影し、現像はカメラ内でなくパソコンでやるというスタイルに自然になっていく。あれれ、いつの間にかRAWで写真を撮ることが普通になってきている。 もしk-5の自動補正速度が速かったならRAWで撮るということには目覚めなかったかもしれません。 

なお、のんびり屋さんといってもk20Dほどではありません。k20DはRAW保存するにも遅かったが、k-5はそこは高速化がはかられていました。ただ、少し頭を使う処理になると、元来が自然の中の野生児として生を受けたk-5、少し不向きなところがあったようです。

◆強靭な肉体

見た目がかなり引き締まったk-5ですが、中身もギュウギュウの密度感を手のひらに感じました。ボディ内手振れ補正機構を内蔵しているためどうしても重たくならざるえない事情があるとはいえ、それだけでなく、ペンタックスは操作ダイヤルや視認液晶の大きさを妥協していないため、ボディの割に各パーツが飛び出そうなくらい大型であることも影響しています。そして、金属ボディの仕上がり品質が非常に高くパーツ同士の隙間がギチギチにつめてあるため、手に持っているときの剛性感が大変高い。以前にキャノンの初期のEOSを握ったときに感じた印象とは真反対です。

実際、小さい割に重さもあるので撮影中に重いか、というとそうではありません。それは、グリップの人差し指のところがえぐれていて、これにより写真機の重さを左手と右手にうまく分散できるからです。このグリップ形状もk20Dからの進歩が感じられる部分でした。

で、この高い剛性というか丈夫さを、実際に体感する機会がありました。

◆スッテンコロリ事件

城崎温泉、18-55mmズームとバッテリグリップを付けて温泉風情とやらをパチパチ写していた旅で泊まった旅館に、ちょっとした池がありました。旅館のロビーから錦鯉のいるこの池までは石段を踏んで歩いていくのですが、小雨が降っていて石の表面が濡れている上に、旅館の下駄ばきでテコテコ足を踏み出したものだから思いっきりスッテンコロリをしてしまいました。良く考えれば無謀な試みですが、小雨がふっているとわけもなく防塵防滴を確かめたい気持ちがムクムクと沸いてきて、すべての冷静な思考を停止させてしまうのでいたしかたない。とにかく後頭部が石に激突して割れるのだけは避けようと咄嗟に首をクイッと持ち上げるだけで精一杯で、腰やら腕やらをしこたま石段の角に打ち付けました。k-5はというと、これも石段にガチーンと打ちつけ、手を離れてコロがっていきました。もう、池にいた錦鯉たちはその音にビックリ。

しかし、そんな魚のことなどどうでも良く、こちらは体がまともに動くか恐る恐る確認してみると左腕の肘から先がしびれ、腰も痛い痛い。少しずつ動かしてみると、どうやら骨には異常がないようなので起きあがってk-5をとりに行きました。

すると、ボディにはぶつけたあとがつきましたが、レンズが割れることもなく無事だったのでびっくりしました。こちらがあれだけの衝撃を感じたのになんともない。試しにシャッタを切ってみたら、まともに写る。その丈夫さには感服しました。たぶん、プラスチックボディだったら確実に割れていたことでしょう。昔、ニコンのFGを首から下げていて落としたときにはズームレンズの中のレンズ群がバリバリッと割れたことがありますが、あれより大きな打撃を被ったのに関わらずレンズも問題なく作動する。

とはいえ、肝心の写し手の方が痛い痛い状態なので、その日は写真を撮らずに家路になんとか車を運転して帰ることにしました。途中、30分を走ったころに腰の痛みが限界に達し、それを抑える湿布を買うため大きなドラッグストアに駐車しました。こちらは運転席でダウンし、妻がサロンパスを買ってきてくれました。

ところが。こちらの車の方には向かわず、隣に駐車していた車のドアを開けたものだから、中で仮眠していたオバサンはビックリ。ボディの色が同じ白だったので間違えたようですが、あのときのオバサンの恐怖にひきつった顔は忘れられません。そのあと、こちらの車を認識し、妻からサロンパスを受け取りましたが、狭い車の中では思うようにズボンを脱げず。仕方ないので、車から降りてズボンを下ろし、患部にサロンパスを貼ることにしました。おろしたズボンの上の尻の部分でもっとも痛むところを妻と二人でアレコレ位置決めしながらサロンパスを貼っていると妙な視線を感じました。

なんと、尻を隣の車の中にいるオバサンにバッチグーのアングルでさらしていたのです。オバサンは凝視しつつ仰天。これ以上は言えません。

というような、微笑ましいエピソードと共に今でも思い出すk-5のタフさ。このときにペンタックスを使っていこう、と心に決めたのです。

◆k-5の先に見えたもの

重量バランスも良く、画質も満足できるk-5はようやくフィルムへの未練を捨てきるきっかけを与えてくれた写真機でもあります。画質でフィルムを振り返ると、k-5の前のk20Dが画素数1600万だったのに対し、超微粒子のフジカラーリアラコンタックスRXにプラナ50mmをつけてスキャナで読み込んだ印象は大雑把にいって600万画素くらいのイメージに感じました。その時点でもk20Dの方がフィルムカメラを上回っていたのですが、オートフォーカスや操作スピードが物足らなく感じてました。なにしろ、EOS100の米国版ELANの方がピント精度が高いのですから。

k-5になり、これらの機能的な不満点の改善は著しく、更にはFTbほどではないが金属ボディの心地よさもあり所有感も満足。フィルム特有のシャドウがスコーンと落ちた締まりある画像も、現像ソフトを使えば自由にできます。さらにk20Dにはなかったキーコントロール機能で撮影時から自分の好きなローキーに振ることもできました。

ただ。まだ自分の望む完成には途上にある道具の感はありました。不満点の例をあげると、ファインダの4スミが少し歪むところ。ピント合焦点とその前後のキレの唐突感(合焦点だけムリヤリにシャープネスをかけているような違和感)。RAW撮影と出先での現像が考えられるのにひとつしかないSDカードスロット。30年前のニコンにも及ばないストロボ制御の安定性。しかしこれらは、とにかく壊れないという何事にも代えがたい性能を身をもって体験した以上、k-5の先に続く残された宿題として大目にみてあげられる程度のことでした。k20Dからk-5への進化を体感すると、必ずやペンタックスは解決してくれるだろうとの信頼もありました。

 ◇次回:人気者「え、こんなカメラあるんですか~」「えっへん。」