まど猫スケッチ

カメラを手に感じてきた雑感を回想する

その12.FM2 ニッポンの機械

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◆出会い

77年発売のシンプルニコンFM,82年に最高シャッタ速度を1000分の1から4000分の1に上げたFM2、84年にシャッタ幕を変更したnewFM2。そして、外装にチタンをまとったnewFM2/T。この、シリーズ最後の機種を95年に購入しました。

EOSやニコンFGも所有してましたが、キャノンFTbの時の「電池がなくても確実に機能する」カメラの記憶と、チタン色っぽい塗装でなく本物のチタンに触れたいという気持ちがシンクロした瞬間、名古屋出張の時に勢いで買ってしまいました。

◆機械式 パート1:露出

FM系の露出がマニュアルであることは写真をする者なら誰でも知ってる話、と同時にその意味の受け止め方で手にするかしないかが分かれるカメラです。

自動露出に慣れた身からすると、シャッターを押す前に露出合わせをグリグリする という手間が増えるわけですから面倒ということになります。あ、いいな、カシャ!の前に あーして、こーしてが入るので あ、いいなと思った瞬間の感動ともズレが出てきます。

それなのに、手にした理由。 グリグリはそれほどいやではない、むしろ節度感あるシャッター速度ダイヤルや絞りリングを操作するのが楽しいというのが一つ。カメラが重いとこの操作は苦行以外の何物でもありませんが、手の中に入る軽さのカメラをいじるのは気持ちいいものです。FGもマニュアル露出で撮って楽しむことがありました。そのFG、ファインダを覗いたとき絞りが表示されないのが残念でしたが、FM系はファインダ表示の上の方に外光式でレンズの絞りを直読できる窓がついてるので、左脇に表示されるシャッタスピードとならんで設定が一目でわかる、これは魅力でした。このファインダ内の設定表示、FMに限らずその頃のオートフォーカス一眼レフなら普通に実現していたのですが、FMはそれを電池なしでもできるところがエライ。デンキを介さないということは、機械が道具としてより自分の五感に直結している感じがします。

露出合わせには電池を使うのだから、結局カメラを使う段になれば電池なしのありがたさなど無い。という話もありますが、やはり電池なしであらゆる露出(絞りとシャッタの組み合わせ)で作動する意義はおおいにある。というのは、露出合わせにすら電池を使わない撮り方、経験露出をする場合です。例えば、①SS250:F8、②SS125:F5.6、③SS60:F4 天気をみて大体この①②③のうち、どれか選べば露出アンダになることはない。露出オーバになった分は、カラーネガまたは白黒の現像でどうにかなる という、写れば恩の字作戦。 そんなに使う訳ではないが、自動露出カメラにはない「電池いらず脳内プログラム露出」機能が使えます。

ただ。マニュアル露出の一つのメリットとして取り上げられる、絞りとシャッタ速度が露出合わせに直結する=露出のオーバ・アンダを迅速に設定できる という事についてこのカメラはあまり向いてませんでした。適正露出の指標が+o-の3つしかないためです。どれだけ+なのか、どれだけーなのかわからない。そこで、露出のハイローを反映したい時は、まずoに合わせてから、これは暗く写そう又は黒っぽい被写体だな、と思ったら絞りかシャッタを1クリック1段露出の感覚でいじる。この辺はちょっと使いづらかった。

ここでキャノンFTbの話に触れると、ファインダ内の絞りやシャッタ速度の表示はなかったが露出合わせがプラプラ動く追針式だったのでどの程度ズレているかががわかり易かった。また、ファインダ内に何の数値表示もないぶん、覗く前に天気をみてシャッタ速度と絞りを合わせるクセがつくので脳内プログラム露出養成にもなる。しかし、やはり手で保持し続けるには重いカメラだった。

◆機械式 パート2:シャッター音

NewFM2のメカっぽさが現れるのはそのシャッター音です。音色がどう、ということではない。選ぶシャッタ速度によって音の長さが違うというのが特徴です。30分の1と60分の1または15分の1とでは、シャッターがゼンマイから解き放たれる時間の長さが違う。ギィーンというのが長いか短いか。0.1秒もない瞬間でそんなことわかるか、と頭では考えるが確かにすべてのシャッター速度で音が違う。

シャッター音というとミラーがリターンする時のカシャとかパシャに気が向くが、その前のギィーンが面白かった。

 ◆機械式 パート3:巻き上げレバー

機械であることを感じた最後が巻き上げレバー。

巻き上げフィーリングのことではありません。もう一つのニコンであるFGの、巻き上げる時のトルク感およびそのあとのスコンと力が抜ける感覚が大変気に入っていたため、相対的にnewFM2の巻き上げフィーリングを覚えていません。

で、なぜ巻き上げレバーを取り上げるかというと、引き出さないとシャッタが下りないメカ的機構を取り入れていたからです。これは良くない。困りました。

カメラを首から下げて歩きながら瞬間に出会ったらすぐシャッタ切れるように準備しておく場面。巻き上げを済ませておき、天気をみて露出を適当に合わせておき、ピントを2mくらいに合わせておく。さあ、瞬間がきた、カメラを構え覗いてすぐにシャッタボタンを押す。しかし、シャッタが下りない。

なぜなら、首から下げていれば巻き上げレバーは自分の腹に押されて格納されている。引き出されていないから切れない、ということになってしまう。シャッターチャージをしているのを知らずにシャッタを押してしまうのを避けるために巻き上げレバーの引き出しでシャッタ押下可能にしたのかもしれませんが、逆にこれではシャッタを切る前にレバーを引き出すという操作が必要なことになり速射性が損なわれてしまいます。ちなみに、レバーを引き出さないと露出計も働きませんが、瞬間勝負のときは露出計が働かなくてもシャッタを押したいことはあります。

個人的には、この引き出し連動解除の弊害は速射時だけに留まらず、あらゆる撮影場面に及ぶ。というのは、左目でファインダを覗くからです。オデコが必然的に巻き上げレバーにあたり格納させてしまうので ファインダ覗く=シャッター切れない ということになってしまうのです。これを避けるためにどうするか、というとレリーズスイッチ使うか、セルフタイマーか、ワインダつけるか ですが、これでは普通の軽量カメラの使い方ではありません。

そこで、右目で覗くという鍛錬をしました。さきほど述べてきた露出の+oーがどうの、という話はこの右目覗き方法を習得したあとでのことです。それまでは、覗くことはできてもシャッター押せなかったのだから。しかし、元来が左目でモノを見てきたのに、右目で覗くというのは相当な違和感がありました。結局、克服に至らず、カメラを手放すことになりました。そうでないと、ワインダつけるということになるが、機械式カメラが思い切りデンキの力を借りるというのも何だかワケわからない、ただ巻き上げレバーのシャッタボタン解除連動しなければ済むはずなのに。初代のFMであれば、そのような連動はなくレバー格納時でもシャッタ切れたと聞くに及んでなおさら。

◆レンズとの思い出

このカメラにはAiニッコール35mm f1.4を付けっ放しにしてました。newFM2を買ったあとに、これまた高い出費となるこのレンズを買いました。好きな画角は45~52mmなので、FGにつけていた50mm F1.4を付け変えて使っても良かったのですが、なぜかしっくりこない、多分、目の延長として扱うにはFGの方が巻き上げレバーや露出合わせの点で向いていたせいでしょう。newFM2は右目で覗くことを意識する段階ですでに目の延長ではなく、絵を仕上げる道具の延長としてなら適度にパースもある35mmが向いていました。

このレンズの描写性能は非常に高く、解像度、色彩の再現力、開放絞り近くのボケ どれも満足いくものでした。newFM2につけると、レンズの方に重心が傾く感じではあるが、このカメラはグリップもなくもともとホールディングしにくい形状なので、レンズを支える感覚で持つ方がおさまりが良く、使いやすい組み合わせだったと思います。

何を撮ったか、というと自然風景が多く、散歩しながら気づいた看板や建物や公園の動物オブジェ(ようするに雑多な存在物)はあまり撮らなかった。カラーネガでばかり撮ってましたが、出てきた写真はどれも綺麗に写っており、newFM2が35mmレンズの光を余すことなく引き出す仕事を勤勉に静かにこなしていることがわかりました。ニッポンが誇る機械です。

◆あらためて欲しいカメラか

たぶん、1円の値札で置いてあっても買いません。機械としての魅力、特にあのシャッタのギィーンやファインダ内の直読式の絞りやシャッタ速度表示には今でも「ぜーはー、ぜーはー」ですが右目で覗くことを強要されても対応ムリ、できない。覗けたとしても、そういう使い方を趣味であるカメラ撮影でするのも道をあやまる気がする。

見た目は非常にストイックで媚がなくカッコイイ、多分頑丈だろう、軽い小さい、レンズに対しても忠実。でも、左目効きには縁のない機械でした。残念。

 ◇次回:またまたバリヤ、最終兵器にして最終画質。 だけど装甲薄し。