まど猫スケッチ

カメラを手に感じてきた雑感を回想する

その23.ケンコーKF3 ウィンダム行け!

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◆出会い

東京中野のフジヤカメラで、何を買いたいでもなくポケ~としてたときに見つけたカメラです。ヤシカコンタックスマウントを持つケンコ-の名がついた一台。RXにもアリアにもない巻き上げレバーを見た瞬間、「そうそう、これはデジカメには絶対真似のできない楽しみなのだ」とバカボンのパパの声が聞こえ、2万円という破格に安いお値段にも背中を押され購入しました。

思えば、LUMIXの画質に仰天しフィルムカメラ存続の危機を感じていた時で、長い年月を記録してきたフィルムへの郷愁を必死につなぎとめようとしていたのかもしれません。

◆スペアボディ:「ウィンダム、行け!」

このカメラの特長は何といってもカールツァイスのレンズを高価なコンタックスを持たずとも使えることです。「写真はレンズが決める。」を確かめたくて、評判あるツァイスを手にしたいがレンズそのものも結構値がはるのでボディにまわす資金が限られるときに2万円というのは魅力です。ニコンやキャノンを使っている人が、どれどれとツァイスに興味をかられて手を出す時にも助けになります。

しかし、すでにコンタックスを持つ身にとっても別の意味でありがたかったのです。

コンタックスのカメラは、使ってみた経験の範囲ではありますが、フィルムに関わる機構に不安定な印象を持ちました。RXおよびRXⅡでコマ送りが安定しない問題があっただけでなく、アリアにおいてもフィルム蓋の開閉レバーが引っかかることがありどうもこの辺の設計が「当たり前の確実性」という意味で行き届いてない。不安だから、スペアボディを持ちたい気持ちになります。しかし、同じ設計思想であろうコンタックスのボディでは、確実性軽視(してるのではないか)の不安が収まることはありません。

その点、KF3は京セラの設計ではなく、おそらくカメラOEMメーカによる図面をもとに中国の光学会社が製造したカメラです。安くするために普段使わない機構は削れるだけ削り、その分、フィルムカメラの持っているべき「当たり前の確実性」がクリアになりシンプルに実直につくられている「ハズ」。まさか、巻き上げレバーみたいなド基本な機構が壊れることはない「ハズ」だから、なんでも電子まかせでない分スペアボディとしての確実性は担保されるだろう、ツァイスのレンズ性能で光景をフィルムに焚き付けることはできるという発想です。これは、モロボシダンが怪獣を目の前にしてウルトラセブンに変身したいが何らかの問題が発生し出来ないとき、「ウィンダム行け!」と代理をカプセル怪獣にたくした気持ちと似ている。地球を宇宙人や怪獣による破壊から多少の時間であってもふせぐという大役を担うウィンダムの姿は、頭にトサカがあったり目が黒点であったりセブンと少し似ている。これもRXとKF3の外見的な距離感と相似をなしている気がしました。もっとも、ウィンダムは電子頭脳を積んでいたり金属ボディをまとっているので、エレキを極力排しているKF3とはこの点で違いますが。

ボディの質感でいうと、貼り革模様は貼ってあるもののそのチリに隙間があったり、プラスチックボディの平面度がうねっていたり、というところが散見されます。そこに期待するカメラではないと思えばそれまでですが、そこに気を使うのがケンコーというフィルタメーカといえどもカメラを出すときの構えではないのか、とも思いました。下手をすると、本業のフィルタもそういう品質なのかと逆読みされないとも限りません。

◆巻き上げ に期待したこと

デジカメはフィルム自体がないので巻き上げそのものがありませんが、フィルムカメラも自動給送が主流になった2008年当時、KF3にある巻き上げレバーは非常に新鮮でした。

レバーが消えていった背景には、対象を見つけた瞬間にすぐ撮影に入れないとか、動くものに対し連続撮影ができないという理由があったと思います。しかし、それによって、一点ずつじっくりと撮影したい時のリズムも同時に消えてしまった気がします。

親指でジュリジュリジュリと巻き上げると、感性のポテンシャルも一緒にチャージされ、さあ写すぞ、という気概が出るのですが、それをモータが自動でやってくれるとポテンシャルの貯め所がないので、心構えのルーティンが省かれた宙ブラリン感があります。

KF3のレバーは、そのポテンシャルを貯めるという感覚を久々に想起させてくれました。巻き上げる時の感触は、巻き上げフィーリング最高と勝手に思っているFGのジュリジュリでなくゴリゴリというものでしたが、ルーティンであることに違いはありません。当たり前ですが、RXの自動給送のようにコマがずれるような問題は皆無でした。

◆「ウィンダム、戻れ!」

①ツァイスレンズを安く楽しめる ②コンタックスの持つ不安定性からの開放 ③巻き上げ時の感性ポテンシャルを励起 というこのカメラしかできないメリットを持ったKF3。 バシバシ使っておかしくないハズだが、フィルムを2本通しただけで使わなくなりました。 

余分な機能はそぎ落とした分(=余計なことに設計時に気を回さずに済む分)、カメラであるべき基本要件は確実だろうと期待した中で一つ残念なことがあったからです。

ピントが非常にあわせづらかった。いや、合わせられなかった。

ファインダの真ん中にあるスプリットプリズムの上下の境を合致させる昔ながらのピント合わせだが、この境がどこで合うのかが非常にわかりづらかったです。明るい太陽光のもとでさえ、合わせたつもりになるのに大変時間がかかりました。

これは、ファインダでは合わせたのに実際に撮影されたピント位置がズレる現象、絞りによるレンズの焦点移動の問題とは全く違います。合わせる時に、どこに上下合致点があるのか見えにくいのです。案の定、そんな状態で写した写真だからピンボケ続出。 巻き上げレバーをゴリゴリして貯蔵した感性のポテンシャルエネルギーは、ファインダでピント合致点を見極めようと四苦八苦しているうちにどんどん消耗してしまいました。絵を決める、どころの話ではありませんでした。

いままでのマニュアルフォーカスのカメラ、FTb、FG、newFM2、アリア、RXではピントプリズムの境目が見づらいなんてことはありませんでした。同じKF3を手にした人の 価格.com の書き込みにはピントが合わせやすいと書いてあったりするので、当方の覗き方とKF3のファインダスクリーンの相性がよほど悪かったためと思われます。スクリーンの組み付き方が間違っているとかスクリーン部品の欠損ならば覗いた瞬間にわかりますが、そんな気配はなかった。まさか、スクリーンのスプリットプリズムに人により合う合わないの相性があるとは想像もしなかったので、買う前にボディのチェックもせずに手にしたのが後悔されます。

ウィンダム行け!」のつもりが、フィルム2本で「ウィンダム戻れ!」になってしまい、その後に登場することは2度とありませんでした。セブンの信頼を得て3回も戦った本当(といってもこれも架空の怪獣だが)のウィンダムのようにはいかなかった。買う前にファインダを覗くことすらしなかった自分が悔やまれます。

ただ、今KF3を所有している方がいらしたら聞いてみたい気もします。それ、本当にピント合わせ易いですか? と。

◇次回:デジカメ大進化。光学ファインダ今なお懐かし。